龍泉洞(岩手県)、秋芳洞(山口県)、龍河洞(高知県)の三箇所が、日本三大鍾乳洞ということになっている。
それ以外に「日本鍾乳洞9選」という選出もあるが、残念なことに岡山県の鍾乳洞はここにも含まれていない。
岡山県の鍾乳洞というのは、全国的に見ればニッチになってしまうらしい。
しかし岡山は、鍾乳洞そのものの数は多い。
入洞禁止の場所や、鍾乳石・石筍などを見つけにくい(つまり鍾乳洞とは分かりづらい)場所を含めると十を超える。
どんな季節も楽しめるが、夏に行く鍾乳洞は特に別世界だ。
晴れの国・岡山で、気温40度に迫る中、特に涼しいところではヒト桁台の気温だったりする。
室内でのエアコンに慣れ親しんでいる身体でさえ、上着なしではちょっと気後れする寒さだ。
観光客が、鍾乳洞の涼しさを知らずに半袖一枚で踏み込んで後悔しているのをよく目にする。
私は上着を忘れないが、外と中の気温差でカメラ本体が結露しないか、毎回不安になる。
その別世界であるが、行けばその光景にも感動間違いなしであろうか?
私が初めて行った鍾乳洞は、冒頭に書いた日本三大鍾乳洞のひとつであった。
しかし正直に書けば、あまり心を揺さぶられるような感動体験ではなかった。
てらてらライトアップされた洞内は、「映え」を誇張するようで表面的な演出だと思った。
商業的な嫌らしさすら感じ、自然の良さを薄めているようだった。
(ライトアップは洞内の生態系に影響を与え、そういう側面で良くないともいわれる。)
当時20代の前半だった私にとって初めての鍾乳洞体験は、やや良くないものだった。
しかしそれらが正しいとまでは言えずとも、観光地としては必要な整備だったのだろうと痛感する出来事があった。
観光地化された鍾乳洞とは逆の、ほぼ整備されていない鍾乳洞に行ったときだ。
そこは岡山県内にあり、整備といえば洞内のセンサーライトが「人が通ったときにのみ光る」というものだった。
現代に生きる、どれだけの人が「暗闇」を味わったことがあるだろうか。
センサーライトがいきなり消えた洞内の奥で感じたあの感覚は、忘れられない。
明かりが消えた寝室などとは別次元の、「暗闇は怖い」という人間の根源的恐怖がそこにあった。
ともかく、今は鍾乳洞のライトアップに感謝すら覚えている。
岡山県内で言えば、特に有名どころの満奇洞・井倉洞・備中鐘乳穴などは、入洞料もかかるがライトと歩道は本当によく整備されており、実に気軽に行ける。
そういう観光地化された鍾乳洞だけに絞って、私は足を運び続けている。
岡山の鍾乳洞の観光ルートは、どれも日本三大鍾乳洞に比べると短い。
日本三大鍾乳洞はかなり歩きごたえがあり(冒頭で書いた秋芳洞と龍河洞は観光コース約1km)、その道中には写真を撮りたくなるスポットが数多くある。
だが岡山の鍾乳洞にも、日本三大たちに全く見劣りしない光景はざらにあった。
そもそもが鍾乳洞は何万年からの時を刻んだ光景なのだから、どれも凄くないわけがない。
だからというわけではないが、ルートは短くても十分に楽しめる。
どこも一緒ということは決してなく、それぞれに特徴があり、撮影できる写真もがらっと変わる。
岡山の鍾乳洞は、日本三大のような名声はないかもしれないが、十分な感動と涼がそこにある。
猛暑の夏は上着を一枚持って、ぜひ足を運んでみてほしい。